INTERVIEWS

株式会社ラナユナイテッド 代表 木下謙一氏

SPECIAL INTERVIEW | RANA UNITED

ウェブデザインから、クリエイティビティの未来を探る

ラナデザインアソシエイツをはじめとする3つのデザインカンパニーと、スペシャリストチーム、実験的なラボやプロジェクトを包括するデジタル・クリエイティブグループ「RANA UNITED(ラナユナイテッド)」。

DESIGNART TOKYOのサポーターでもある代表の木下謙一さんは、インターネット黎明期にウェブデザインの会社を創業しました。事業の核にあるのは“デジタルドリブンなクリエイティビティ”。木下さんが考える、クリエイティブの産業化とは。

メディアとデザインの一体化

北参道のオフィスに並ぶのは、木下さんが「デザイナーの主義主張があって、使う人に様々な影響を与える」と感じたインテリア。
そのモノ選びの指針は、ウェブデザインへの考え方とも共通しています。武蔵野美術大学出身の木下さん。
自動車の工業デザイナーを目指していた学生時代、工業デザインからウェブデザインへと関心がシフトしたきっかけは、2次元のスケッチから3次元のモノへとジャンプさせる際に生じる矛盾に、ひっかかりを覚えたことでした。
「違和感を抱きながらすごく思ったのは、当時登場したばかりだったコンピューターをデザインに使えるのではないか、ということです。続いて訪れたインターネットとの出会いは衝撃でした。それまでのデザインは届けるときに別の媒体を介さなければならなかったのが、インターネットは常に人とつながっていて、媒介させることを考えなくていい。メディアとデザインが一体化しているのだと感じました」

CG、インダストリアルデザインのプロダクションを経て、1997年にラナデザインアソシエイツを設立。当時、インターネットを扱うのは理系の人がほとんどで、デザイナーは少数でした。インターネットにデザインをどう入れ込むのか思案する90年代が過ぎ、2000年代初頭に入ると、デザイナーはビジュアルを提供するだけではなく、根源的なアイデアが問われるようになります。

「『アイデアってどこからわいてくるの?』とよく聞かれますが、わいてくるものじゃない。クライアントが持っていて、それをいかに引き出すかだと思います。クライアント自身でも気がついていないことも多いのです。それをどう言語化するかが、我々デザイナーの勝負どころだと思うのです」

ラナユナイテッドの制作プロセスで特徴的なのは、密なワークショップ。

「ひとつは、クライアントの『何となくこういうものがほしい』からスタートして、具体的なソリューションや制作物を考えるパターン。もうひとつは逆で、かなり精密な仕様書がある場合です。『本当にこれがほしいものですか?』とクライアント自身も気づいていないインサイトを炙り出していく。両パターンあることで、思いもしなかったような新しいものが生み出せることを経験してきました」

ウェブサイト制作のハードルは年々下がり、誰でもつくれる状況はますます加速するだろうと木下さん。
だからこそ、「クライアントが何を打ち出すのか、エンドユーザーが何を受け取りたいかを同時に考えたい」と言います。

「クリエイティビティとは、広い意味で“新しいもの”を創り出すことだと考えています。つまりは今まで見たことがないものですね。人間は飽きっぽい動物ですから、新しいものに刺激を受ける。刺激は欲求や衝動を生じさせることができます。見て衝撃を受けて、『自分だったらこうする』と考えたり、ある種のコールアンドレスポンスが生まれるものだと思うんですよね」

クリエイティブを産業化するには

「欧米には大規模なクリエイティブの会社がいくつもあって、産業に近い状態かなと思いますが、日本のクリエイティブインダストリーはまだはじまったばかりではと思います。クリエイティブを産業化したいと常々考えていますが、例えば銀行などでローンを申し込むとき、業種を選択する欄に『デザイナー』や『デザイン業』というカテゴリーがないのです。それは、産業として小さいし、まだ認められてないということですよね」

木下さんが自らの試みとして続けているのは、組織で行うデザインです。

「デザイナーはフリーランスもいれば、インハウスも、事務所に所属する人も、法人化している人もいる。デザインは1人でもできるし、それはそれで楽しいですよ。うちがあえて会社としてスタッフを雇用しているのは、産業化していくために組織立ってデザインができないかという思いがあるから。法人であれば、依頼いただく際の安心感がありますし、チームの中で高め合えます」

2007年には株式会社ラナエクストラクティブ、2018年には株式会社ラナキュービックを設立。グループとして手がける制作は、ウェブデザイン以外の領域へも大きく広がっています。

「会社を分けた理由の1つは、クリエイティブがいろいろな分野に枝分かれしていくことへの対応です。『本当にほしいものは?』『目的は?』と突き詰めていくと、ブランドを確立したいという話が多い。デジタルやウェブで完結しないこともしばしばです。
しかし、これまでの仕事で培ってきたことを活かして、デジタルドリブンなブランディングを追求しています。
例えば、千葉県の柏市のトータルブランディングは、キャッチコピー、ロゴマークの制作からはじまりました。また、NHKが主なクライアントのデータビジュアライゼーションでは、膨大なデータを生放送中にリアルタイムで処理して3Dグラフィックスで可視化。
報道番組などで活用できる分析・演出用のアプリケーションを開発しています」

DESIGNART TOKYOを世界へ

「日本がコンテンツ、デザイン、観光といった文脈で産業振興をするなら、DESIGNART TOKYOは日本に必要なイベントだと本当に思います。お祭りでもあり、商談の場でもあり、学術的な勉強の場でもある。デザイン分野におけるそうした場はまだまだ少ない。もっと大きく、海外からの来場比率もより高いイベントになってほしいと応援しています。デザインにデジタルのテクノロジーが導入されることで様々な産業との境目が融合してきています。私たちもこれから更に深く関わり、日本を代表するデザインイベントとしてデザイナートを盛り上げていけたらと思っています」

text: Aika Kunihiro
photo: Ryo Usami

BRAND / CREATOR

株式会社ラナユナイテッド 代表 木下謙一

1969年生まれ。
1992年武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。
CG、インダストリアルデザインのプロダクションを経て、1997年ラナデザインアソシエイツを設立。 90年代半ばのインター ネット黎明期よりウェブデザインを手がける。
現在では様々な企業のデジタル戦略を担うほか、インスタレーションやテレビ番組用データビジュアライゼーションなど、仕事の幅を広げている。 デジタルクリエイティブを中心に据えているが、松任谷由実氏のCDジャケット、マーチャンダイズも手がけるなど、 トータルなクリエイティブディレクョンを強みとする。
グッドデザイン賞など国内外で受賞多数。
母校である武蔵野美術大学の非常勤講師を20年近くにわたり務める。

RANA UNITED(ラナユナイテッド)

RANA UNITED(ラナユナイテッド)は、ラナデザインアソシエイツ、ラナエクストラクティブ、ラナキュービックの3つのデザインカンパニーと、複数のスペシャリストチーム、その他、実験的なラボやプロジェクトを包括する、デジタル・クリエイティブグループです。

https://www.ranaunited.com/
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