INTERVIEWS
SPECIAL INTERVIEW | ペリエ ジュエ × フェルナンド・ラポッセ
The Pollination Dance
フェルナンド・ラポッセとシャンパーニュメゾン「ペリエ ジュエ」のコラボレーション
調和のとれた世界
シャンパーニュメゾン「ペリエ ジュエ」は、毎年自然に対するビジョンを共有する、新進気鋭のアーティストとのコラボレーションを行っています。
2023年は、メキシコのアーティストでありデザイナーでもあるフェルナンド・ラポッセ氏とタッグを組み、花と受粉にインスパイアされた魅惑的なインスタレーションを作り上げました。
ラポッセ氏の作品は、彼自身が「ペリエ ジュエ」のブドウ畑を訪れた体験をもとに、私たちと自然との関係や、環境問題の解決の可能性について、力強いメッセージを伝えています。
自然と伝統に根ざした素材
このコラボレーションの中心には、「ペリエ ジュエ」とラポッセ氏が共有するビジョンがあります。それは、人類を含むあらゆる生物が、壮大な自然が織りなす地球上で誰しもが欠かすことのできない役割を果たしている、という考えです。
今回のインスタレーションでは花と受粉に焦点が当てられていますが、これは「ペリエ ジュエ」の価値観と合致します。
ラポッセ氏はテーマについて次のように話しています。
ー「花を扱うことは、「ペリエ ジュエ」の歴史を考えれば必然的なことだったように思います。受粉に焦点を当てることに決めたのは、エペルネにある「ペリエ ジュエ」のブドウ畑を何度か訪れた後です。
このような大きなシャンパーニュメゾンが、ブドウが育つ生態系の健全な未来を確保するためには方向転換が必要だと認識していることに、私はとても感動しました。」
彼を驚かせたのは、ブドウ畑において野生の植物や花をブドウの木と共存させるパーマカルチャーシステムでした。このシステムは、ラポッセ氏がコラボレーションをするにあたり、極めて重要なインスピレーションとなりました。インスタレーションでは、彼にとって「耕作地というよりむしろ大きな庭のように見える」パーマカルチャーシステムを具現化しています。
受粉のはかない美しさと象徴性
ラポッセ氏の作品では、自然の素材が多用されますが、今回のインスタレーションでも、花や昆虫由来の素材がふんだんに取り入れられています。例えば、蚕の恵みで紡がれるシルクオーガンジーの生地が使われ、さらにマリーゴールドの花と天然色素のコチニールで染められています。マリーゴールドは、メキシコの「死者の日」を祝う際に使われる花で、再生と季節のめぐりを象徴しています。
そして、コチニールも歴史的に貴重な顔料で、サポテカ族の人々が家畜化した昆虫によって出来上がります。伝統的な農法が、先住民コミュニティで今なお行われているおかげです。
これらの素材は、自然の素晴らしさを強調するだけでなく、メキシコの伝統に敬意を表すという文化的な意味合いも持っています。
ラポッセ氏は、このように素材の重要性を述べた上で、次のように語っています。
ー「私がこれらの素材に惹かれるのは、もちろん自然由来のものだからではありますが、土地に根ざしたもので、文化的にも重要な素材を使えば、非常に洗練された結果が得られることを教えてくれるからです。私にとっては、この作品に自分の文化的アイデンティティを盛り込み、自然が敬われる未来への道標となる伝統に光を当てることも重要でした。」
このようにラポッセ氏は、自然と文化への深い理解をもちそのつながりを大事にされています。だからこそ、受粉というミクロな世界の重要性に着目し、力強いメッセージを投げることができるのでしょう。
彼は、受粉についてこのように説明しています。
ー「受粉にはまだ神秘主義的な部分が多いので、本当に魅了されます。ある意味、花粉は天然の万能薬であり、微量で希少なものですが、農業を含むあらゆる生活にとって不可欠なものなのです」。
彼は、受粉という魅惑的なプロセスに特に焦点を当てながら、生態系における花の重要な役割を示しています。このインスタレーションでは、「厳しい冬のあとの気候の移ろいの中で、昆虫や花、そして風が恵みの時を祝って舞い、新しい季節と生命の循環の始まりを告げる瞬間」を再現しようとしているそうです。
また、もう一つ重要なキーワードである「時間」についても教えて頂きました。
ー「花が花粉を生産する期間はほんの数時間から数日ですが、短くも必要不可欠な期間で、昆虫たちはこの恵みを祝うような行為で享受します。このインスタレーションでは、時間という概念も重要です。なぜなら、時間と手間をかけることで、ブドウジュースを極上のシャンパーニュへと変化させるからです。つまり、シャンパーニュを口にするとき、私たちは時間を味わっているのです。季節や年月を丸ごと瓶に詰め、特別な瞬間にそれを楽しむのです」。
ラポッセ氏は、こうした時間の経過と受粉の本質を「花粉時計」として独創的に表現しています。
花束から黄色い砂が滴り落ちる様子は、ブドウ果汁が「ペリエ ジュエ」の名声を誇る、洗練されたシャンパーニュへと変化していくように、緩やかな時の流れを象徴しています。
フェルナンド・ラポッセ氏と「ペリエ ジュエ」のコラボレーションは、自然の美と洗練されたアートとを見事に融合させています。
受粉の複雑な美しさが、人類と自然界の深いつながりについて思いをはせるよう私たちを誘っているようです。このインスタレーションを通じて、自然環境を育む重要性や、よりサステナブルな未来に向けて、自然、文化、伝統とあらゆる生物との関係を深く考えることができるのではないでしょうか。
text: Ami Suzuki
BRAND / CREATOR
ペリエ ジュエ
1811年にエペルネに創立したシャンパーニュメゾン、 ペリエ ジュエは、フランスの中でも歴史ある老舗メゾンです。ペリエ ジュエのシャンパーニュは、シャルドネ本来のエッセンスを紐解く花のような香りと複雑な味わいをもつ、唯一無二のシャンパーニュです。創立以来たった8名のセラーマスターにより、そのシャンパ―ニュづくりの技術・技能と不朽の伝統が継承されています。また、創立者がこよなく愛した、日常を魅力的なものにする「自然とアート」から深い影響を受けています。1902年、アール・ヌーヴォーの旗手であるエミール・ガレとのコラボレーションにより、ペリエ ジュエのボトルにゴールドで縁取られたアネモネが描かれ、それがメゾンの象徴となったように、以来ペリエ ジュエは、ダニエル・アーシャム、ノエ・デュショフール=ローランス、東 信(あずま まこと)、トード・ボーンチェといった一流アーティストや新進気鋭のアーティストとのコラボレーションを続けています。
https://www.perrier-jouet.com/ja-jp
フェルナンド・ラポッセ
フェルナンド・ラポッセはロンドンを拠点に活動するメキシコ人アーティスト兼デザイナー。
サイザル麻、ヘチマ、トウモロコシの葉など、見過ごされている植物繊維を多用し、質素な天然素材を洗練されたデザインに変えることを得意とする。母国メキシコでの雇用機会や環境危機などの問題にも取り組む。ミラノ・トリエンナーレ、ヴィクトリア&アルバート美術館などでも展示をおこなう。