ARTIST INTERVIEW
DATE:2020年9月29日 2020 INTERVIEW
忠犬ハチ公像と、渋谷の未来

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1964年の東京五輪の開催に伴い、整備された宮下公園が、渋谷駅周辺の再開発と連携してリニューアル。「渋谷の方位磁針|ハチの宇 宙」は、パブリックアートの普及を推 進するDESIGNARTが、渋谷区観光協会、渋谷未来デザインと協業し、プロデュースしました。


渋谷の新しいシンボルとして、新宮下公園に誕生した忠犬ハチ公像。巨大なコンパスの真ん中にちょこんと座り、見上げる空には何が見えるのでしょうか。この作品に託した未来へと続く物語を現代アート作家の鈴木康広に訊きました。

photographs: Kaori Nishida
Text: Toshiaki Ishii @river

パブリックアートの役割とは


ありふれた日常に潜む小さな発見を、独自の“見立て”でとらえ直し、ものの見方や世界のあり方を問いかける作品を発表している鈴木康広。愛知万博のオープニングで使用された「まばたきの葉」や瀬戸内国際芸術祭で海を切り開いた「ファスナーの船」、六本木アートナイト2018にも登場した「空気の人」など、人々の原体験ともいえる記憶を呼び起こし、五感に訴える彼の作品は、近年、国内外で大きな注目を集めています。

そんな鈴木が手がけた最新のパブリックアート「渋谷の方位磁針|ハチの宇宙」が、今年8月に開業した 「MIYASHITAPARK(ミヤシタパーク)」に登場しました。MIYASHITAPARKは、渋谷再開発の一環として公園、商業施設、ホテル、駐車場を一体化させた渋谷の新しいランドマーク。全長約330メートルの複合施設の屋上部には、渋谷区立宮下公園が広がり、そこに彼の作品が設置されています。

「最初に、DESIGNARTと渋谷区観光協会、渋谷未来デザインから“新しい渋谷のシンボル”になるような作品をつくってほしい、という依頼 があり、自分なりにどういうかたちでコミッションできるのかを考え始めました。というのも、パブリックアートは設置が完了したらそれで終わりではなく、長い年月をかけて作品が近隣の生活者や多様な来訪者と、どうかかわっていくのかをデザインすることも大切だと思うからです」

ここにしかないもの、訪れたことを記憶に刻むもの、と徐々に想像を膨らませ、鈴木がたどり着いたモチーフが渋谷区の地図でした。目指したのは、来場者がいまいる場所と、これから向かう先の方位を身体で感じられる作品です。

「渋谷区の形状をベンチに落とし込むことで、そこに座った人が地球上にある渋谷という場所に意識が向くのではないか、と考えました。同時に、明治通りに沿って南北に広がるMIYASHITAPARKは、道行く人たちにさりげなく方角を知らせるコンパスの“針”のような場所。そのことに気がついたのも、自分のなかでは大きな発見でした」

鈴木は、かつて手がけた作品「日本列島の方位磁針」をもとにアイデアを発展。しかし、渋谷区の輪郭があまり認知されていないことを知り、発想の転換を迫られます。

「そんなとき、プロジェクトメンバーの間で、方位磁針の針(渋谷の地図)の中心にハチ公がいたらどうだろう、という話になったんです。最初はその案にリアリティを感じられませんでしたが、ハチと渋谷の歴史やハチ公像のことを調べているうちに、どんどん興味が湧いていきました」

“長い年月を見据え、生活者や来訪者とのかかわりを
デザインすることも大切です”

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