INTERVIEWS

写真左より木下謙一さん、田中映子さん、本田夏菜さん

SPECIAL INTERVIEW | RANA UNITED

テクノロジーでインテリアをあつらえる可能性を探る

3つのデザインカンパニーと多様なスペシャリストチーム、実験的なラボやプロジェクトを包括するデジタル・クリエイティブグループ「RANA UNITED(ラナユナイテッド)」。三井デザインテックと2社で作り上げた伝統的技法の左官と最新テクノロジーを掛け合わせたデジタルアートが、世界3大デザイン賞の「Red Dot Design Award」を2022年に受賞しました。
DESIGNART TOKYOのサポーターでもあるラナユナイテッド代表の木下謙一さんと、三井デザインテックの田中映子さんと本田夏菜さんに、開発の経緯やコロナ禍でのやり取りを経て受賞に至ったインテリアにおけるテクノロジーの可能性についてお話を伺いました。

人数や季節で変化する一期一会のアートで企業理念を表現

本田さん(以下敬称略)「新本社の来客スペースを手掛けるにあたり、ゲストを迎えるサロンのような場所にふさわしい空間のあり方を考えました。お茶室における季節の花やお軸のように、ウェルカムフラワーからウェルカムアートへと続く空間体験でおもてなしの心を感じていただけたらと思いました。企業理念を発してくれるアートが欲しいよね、となったんです。」

田中さん(以下敬称略)「どのようなアートがふさわしいか様々な解がある中で、左官に映像を投影する手法に落ち着くまでがとても長い道のりでした。」
三井デザインテックが目指す「協創」を推進するための場所としての新本社「CROSSOVER lab」
本田「その頃、社で手がけていた別案件でプロジェクションマッピングを提案していて、 “情緒”や“余白”のあるラナユナイテッドさんの作品づくりに大きな可能性を感じました。もともとビーキャップ(*)などの新しいシステムを社内に採用していったのもあって、お互いの生業をベースにする表現方法はないだろうかとご相談したところから始まりました。普遍的なものにしたいということ、そして季節を感じられるものにしたいというボールを木下さんに投げてみたんです。」
田中「そして辿り着いた解がこちら。その場にいる社員と来客の方の人数や、その時の四季や気候によってインタラクティブに変化する一期一会の映像表現を映し出すアート作品です。」

*微細な電波を空間に発することで社員やゲストが社内のどこにいるのかを把握する位置情報システム
 「Red Dot Design Award2022」受賞のデジタルアートという言葉から連想するには意外なまでに静謐な佇まい。

コロナ禍を経ての国際的デザイン賞受賞

青と白の滝の水が混ざり合い、左官の隆起にあたって水しぶきをあげて流れる涼やかな夏の時期の映像
田中「お互いクリエイションというベースは共通しているものの、例えば雨とひとつでも私たちがイメージする雨と、ラナさんが思い描く雨は違っていたりする。そのセッションが面白くて。」

本田「当時はコロナ禍。みんなマスク姿で画面越しによくわからない動くものを見るところから始まりました。デジタルでも、最初からもっと自然な感じにできるんじゃないかと思っていたところがありました。『インクを水に垂らす、油膜感、ラー油((笑)』などの言葉のやり取りを経て、それならこういう表現できますか?と水彩画を見せるなど画像でのやり取りに変化していきました。現地でのリアルでの打ち合わせは、左官のラインを描いた大きな紙を壁に貼って、プロジェクターを吊るし投影しながら、数字をラナさんが変えると映像も変わる。その様子を見ながら『こちらがいい。』などというように手探りでした。」

田中「そもそも私たちにとって、左官がアナログという意識もありませんでした。左官にも色々あるので、粒度や色味の異なるサンプルをいくつも用意して。職人さんがコテで厚みなどもミリ単位で機械の調整に合わせて塗ってくれました。その三次曲線の隆起に1ピクセルごと手作業で映像を動かして目視で合わせてもらいました。」

木下さん(以下敬称略)「アナログとデジタルを何度も行ったり来たりしましたよね(笑)。」

本田「輝度が高すぎなくてベージュの左官に投影しているから、インテリアに融合する作品に着地できたんじゃないでしょうか。」

田中「全員が諦めない、めげない。パッションがあって叶えてあげようという姿勢で、私たちの想像の範囲を超えるクリエイションでこたえてくれるラナユナイテッドさん。最後まで協力して一緒に創っていけた感覚のあるプロジェクトでした。」
木下「2022年にRed Dot Design Awardを頂いたのですが、和風だけどテクノロジーを纏っている。日本っぽさって加点ポイントだと思うんですよね。ただ和風とか日本風ってなんとなく使っているけど、本当のところなんなのかな?って。最近お茶を習い始めたのですが、もちろんハイライトはお茶を飲むことなのですが、主催する側は2、3週間前から用意しないと間に合わない。おもてなしのための見えない準備がすごい。一方で茶の湯の文化が花開いたのは、安土桃山で成立した武士向けのもの。当時の侍って力比べ的なマッチョな文化だったと思うんですよね。そこに力だけじゃなくて交渉ごと等の場として、茶道が発展していく訳ですが。マッチョな人に向かって口で言ってもわからないから、身体的にやらせてみるところがいいですよね。茶室に入る時には刀を外してくださいね、躙口が小さくて低いからゆっくり入らないと頭ぶつけちゃいますよ等、いろんなお作法があるけど全てある種の教育の一環なのかなぁと思うんですよ。物言わずとも、そう行動せざるをえない空間づくりへの配慮などに日本的なものを感じています。」

インテリアにおけるデジタルアートの可能性

秋の時期は紅葉。来客数が増えるとリアルタイムで鮮やかな赤いもみじが増える
田中「社内にはアートが多数あるのですが、唯一動くのがこちら。使いながらカスタマイズできるのもアートとして面白いですよね。例えば今後会社の思想や伝えたいメッセージが変わった場合には、映像も変わるのかもしれないという話も出ました。」

木下「物質のアートとは違うところなので面白い話ですよね。僕たちはデータをインプットしてアウトプットはいかようにもできます。そのプロセスにクリエイティブを挟んでいく。アウトプットは画面でもいいし、立体の模型でもいいし。このプロジェクトをきっかけに“インテリアのチーム”として、三井さんと複数の企業さんの空間に映像作品を納品させてもらいました。インテリアにおけるデジタルアートの可能性についてまだまだできることがあると考えています。」
「企業特性を聞いていって、それを活かせるような方法がいいと思うんですよね。」
木下「心地よく一体化している作品をいくつか作りましたが、なにかもっと色々なことができそうな気がしています。その可能性を探っていくヒントに、建築におけるエアコンがあります。20世紀の建築家に設計に関して影響を与えたものを アンケートをとったことがあるらしいのですが、エアコンができる前は、日差しをどうやって遮って風通しをよくするかなどで建物の形や素材が決まっていった。極論ですが。今は箱を作ってエアコンを設置したらいいという。その良し悪しがあるものの、それと同じように新しいテクノロジーの要素で建築や空間の様式とかあり方が全部変わっちゃうような、そんな風にならないかなぁと。 こういうふうに使ったらいいじゃん!みたいなものをいつも探しています。」

Text: 土橋陽子
Photo: 山本康平

BRAND / CREATOR

RANA UNITED

RANA UNITED(ラナユナイテッド)は、ラナデザインアソシエイツ、ラナエクストラクティブ、ラナキュービックの3つのデザインカンパニーと、複数のスペシャリストチーム、その他、実験的なラボやプロジェクトを包括する、デジタル・クリエイティブグループです。

https://www.ranaunited.com/

株式会社ラナユナイテッド 代表 木下謙一

1969年生まれ。
1992年武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。
CG、インダストリアルデザインのプロダクションを経て、1997年ラナデザインアソシエイツを設立。 90年代半ばのインター ネット黎明期よりウェブデザインを手がける。
現在では様々な企業のデジタル戦略を担うほか、インスタレーションやテレビ番組用データビジュアライゼーションなど、仕事の幅を広げている。 デジタルクリエイティブを中心に据えているが、松任谷由実氏のCDジャケット、マーチャンダイズも手がけるなど、 トータルなクリエイティブディレクョンを強みとする。
グッドデザイン賞など国内外で受賞多数。
母校である武蔵野美術大学の非常勤講師を20年近くにわたり務める。

三井デザインテック株式会社

オフィスやホテルなど施設空間の企画・デザイン・設計・施工、マンション・戸建住宅・医院などのリフォーム、事業用建物のコンバージョン・リニューアルや多彩なインテリアサービスなどを展開。
すまいや働き方において、多様化・ボーダレス化するニーズに対し、「空間デザイン」によるソリューションを提供することで、社会と人々のくらしに貢献しています。

https://www.mitsui-designtec.co.jp/
loading logo loading logo