INTERVIEWS
左: 現代アーティスト KAORUKO / 右: LIONRUGS, エスマイリ・ホセイン / photo: Takuya Yamauchi
SPECIAL INTERVIEW | LIONRUGS × KAORUKO
ペルシャ絨毯の伝統と革新が結んだコラボレーション 現代アーティスト KAORUKOとのマスターピース・コレクション
数千年もの歴史をもち、中東の国・イラン各地で現在も手織りされているペルシャ絨毯。その中でも最高峰の質とデザインの品々を届けるギャラリーショップ「ライオンラグス青山」は、現代アーティスト KAORUKO とのコラボレーション作品を展示する。構想・制作に2年もの歳月をかけて完成した、細密画のように美しい唯一無二のペルシャ絨毯と、KAORUKOが描く新作絵画の初公開は、またとない貴重な機会だ。
「ライオンラグス」のエスマイリ・ホセインとKAORUKOに、偶然にして必然の出会いからコラボレーションにまつわるエピソードを伺った。
―手織りされた織物だということが信じられないくらい、豊かな色彩と緻密な描写に驚きました。今回のコラボレーションのきっかけをお聞かせください。
ホセイン
数年前、共通の知り合いを介して、偶然ご挨拶したのが最初ですね。その後、KAORUKOさんに絵画を見せていただいて本当に驚きました。仕事柄、世界各国、そして日本各地でさまざまなアート作品を拝見してきましたが、KAORUKOさんの作品は別格で、非常に感銘を受け、ぜひ我々と作品を作ってほしいとお話ししました。
KAORUKO
私も何かもっと作品を通して、広くお役に立てるような活動がしたい、と考えていた矢先でしたので、とても光栄でした。
私は長らくニューヨークを拠点に作家活動を続けてきましたが、日本人である自分のアイデンティティを表現するため、日本の着物に古くから描かれてきた、伝統的な文様の数々を作品に取り入れてきました。文様の一つひとつには、縁起を担いだり、幸せや長寿を願ったり、と、さまざまな想いがこめられていますが、ペルシャ絨毯も同じように、美しい文様にはさまざまな意味や想いがこめられているとホセさんに伺い、共通点が多くて嬉しくなりましたね。例えば、海や川、水をイメージさせる「青海波(せいがいは)」は、偶然にも、世界各地に似たデザインが存在しているそうです。
また、創作における大切なテーマが、すべてのものに生命や魂が宿っているという「アニミズム」の考え方や、現代を生きるさまざまな女性の姿を、ポジティブなフェミニズムとして表現することですが、最高峰のペルシャ絨毯を織る職人の方々は女性が多い点にも、共感ができました。
―お話が動き出してから、作品として完成するまで、とても長い時間がかかっていそうですね。
ホセイン
そうですね、モチーフとする絵画を、KAORUKOさんがここ数年で手がけた作品の中から厳選し、絨毯として織っていくための設計やデザインの準備がととのうまでに約1年、職人の皆さんへ依頼して完成するまでに約1年かかっています。また、KAORUKOさんの絵画を忠実に表現できるよう、非常に高い技術を持った職人や工房が多い、イラン北部の産地・タブリーズで制作しています。
―KAORUKOさんは、完成したペルシャ絨毯を初めてご覧になっていかがでしたか。
KAORUKO
素晴らしい仕上がりに驚嘆しました。職人の皆さんとのコミュニケーションは、全てホセさんにお任せしましたが、手描きの微細な陰影や色彩を、見事に表現していただけて嬉しかったです。
赤色ひとつとっても、一体いくつのバリエーションの赤の糸が使われているのだろう、というほどですし、面相筆で一本ずつ線を描いた後、水墨画のようにふわっと絵具をのせた髪の毛の部分も、数えきれないほどの色の黒の糸を使って繊細なグラデーションが表現されています。お話を伺えば伺うほど、素晴らしい技術と、途方もない手間や時間のかかった作品だと実感しました。
また、ウール100%の織物ならではの、ふんわりと柔らかい質感や色の表現は、「ライオンラグス」さんとのコラボレーションだからこそ。私が普段描いているキャンバスの上では、なかなか真似できませんね。
ホセイン
ありがとうございます。私たちは、ペルシャ絨毯とは「10本の指で作るアート」だと考えています。世界中のミュージアムにペルシャ絨毯が所蔵されていることからも、世界で認められたアート作品と言えるでしょう。
と同時に、耐久性のある品質を兼ね備え、染織、デザイン、技術や技法など、いわばその国固有の文化や歴史を後世に伝えるメディアとしても、大きな役割を果たしています。
今回、KAORUKOさんとのコラボレーションは、職人の方々にとっても非常にチャレンジングな試みでしたが、アーティスト同士が出会うとこんなにも素晴らしい作品ができるのか、と我々も驚きました。世界中でここにしかない、ここでしか見ることのできない、貴重なマスターピースですし、この先、数百年単位で作品の魅力を後世に伝えていくことができるのも、ペルシャ絨毯ならではでしょう。
―コラボレーション作品は、モチーフにした絵画もサイズも、バリエーションが豊かですね。日本画で見られる貼り重ねられた金箔の背景なども細やかに表現されていますし、こちらの作品は、女性の全身像とあざやかな花々が印象的です。
KAORUKO
これは《offering godness》というタイトルで、モチーフにした絵画は、アメリカの個人コレクターの方が所有されています。高さ2.5メールほどとかなり大きく、3枚からなる連作のひとつです。
実は、宴席で饗される「女体盛り」がテーマなのですが、私にはまるで、大地なる母、全てを受け入れ捧げる、慈悲深い女神の姿のように感じられ、12ヶ月を表す草花と共に、主題として描きました。
―そのようなメッセージがこめられているのですね。しかも、裏側まで非常に美しい図柄で驚きました。小さく刺繍されたペルシャ文字は?
ホセイン
織った職人の名前です。いわばサインですね。ペルシャ絨毯を織る作業は、最初から最後まで基本的に一人で行っていますので。また、ペルシャ絨毯の質は裏側を見れば一目瞭然。最高級品は裏側の織目が非常に細かく均一で美しいので、「DESIGNART」の会期中、当店で実際に確かめていただきたいです。
―ありがとうございます。ぜひ多くの方に直接、ご覧いただきたい作品ばかりですね。また、KAORUKOさんの絵画もご紹介されるそうですね。
KAORUKO
はい、このコラボレーションにちなんだ新作も初公開する予定です。ホセさんにご協力いただいて、ペルシャ絨毯で伝統的に用いられている青色の染料と、ご縁をいただいた神社で特別に賜った湧き水で、龍をモチーフとした作品を描こうと構想しています。
ホセイン
私も拝見するのが非常に楽しみです。
ペルシャ絨毯が縦と横を結ぶ糸によって出来上がっているように、さまざまなご縁で結ばれて、今回の素晴らしいコラボレーションが実現しました。ぜひ多くのお客様にご覧いただき、新たなご縁を結んでいけたら嬉しいですね。
Text: Naomi
Photo: Takuya Yamauchi
SPECIAL INTERVIEW | LIONRUGS × KAORUKO
BRAND / CREATOR
KAORUKO / カオルコ
1982年に「新井薫子」としてデビュー、アイドル活動を経て、2007年からアメリカ・ニューヨークを拠点に、着物の文様をコラージュし日本文化を反映させたコンセプトでアーティスト活動を行う。その独自の技法や構成、作品の対象は、NYのファインアート界でも独特の存在感を持ち、多くのコレクター達に強烈なインパクトを残している。
https://www.instagram.com/kaorukoart/
Hossein Esmaeili / エスマイリ・ホセイン
イランの老舗絨毯商の家に生まれ、幼い頃からペルシャ絨毯の山を遊び場にして育つ。弟サミルとともに家業を継ぐため、絨毯問屋や卸業にて学んだのち、2011年に「ライオンラグス」を立ち上げる。現在、浅草と青山、大阪に店舗を構える。
https://lion-rugs.com/