INTERVIEWS
SPECIAL INTERVIEW | スタイレム瀧定大阪 × 乃村工藝社 × HYBE Design Team
「DESIGNART TOKYO」というユニークなプラットフォームがもたらすもの
オフィシャルエキシビション「Reframing」展の空間デザインを手がけたHYBE Design Team。
スペース内の什器等は、スタイレム瀧定大阪株式会社が展開する、ポリエステル繊維をリサイクルした新たな素材「TUTTI®(トゥッティ)」を用いており、両社を乃村工藝社が繋げたことで、コラボレーションが実現した。
テキスタイル、インテリアデザイン、空間プロデュース。異なるフィールドのプロたちが、なぜDESIGNART TOKYOをきっかけに出会い、協業することになったのか。終始和やかでユニークな鼎談の様子をお届けする。
左官、土、クリエイターならではのアイデアの飛躍
竹田純 / HYBE Design Team 代表(以下敬称略)
今年のオフィシャルエキシビション「Reframing」展の空間で、“ 無垢や塊の状態で、再生素材を用いる ”というアイデアをかたちにしていく中、DESIGNART発起人の青木さんを介して、後藤さんともざっくばらんにお話しさせてもらったのが最初、ですよね。
後藤慶久 / 乃村工藝社(以下敬称略)
そうですね。「Reframing」展のテーマや、竹田さんの考え、展示のパースを見せてもらいながら話を伺って、単純にカッコいいし、これは実現するべきだ!と思いました。
乃村工藝社は、DESIGNART TOKYOに参加して今年で3年目。自社のプレゼンテーションに加え、オフィシャルエキシビションでも素材の提案などでご一緒してきましたが、あれこれ話していく中で、“ 左官 ” というアイデアが出た時、左官、土・・・そういえば、とピンと来たのが、大阪を拠点とするスタイレムの坂本さんと「TUTTI」でした。
坂本和也 / スタイレム瀧定大阪株式会社(以下敬称略)
後藤さんから「電話で相談したいんですが、時間もらえますか?」って、急にショートメッセージをいただいて驚きましたが(笑)、「DESIGNART TOKYOのエキシビションで、「TUTTI」を左官による内装の素材として使いたい」と伺って、もっと驚きました。
というのも、「TUTTI」は元々、植物を植えて育てる培地として、廃棄される衣類などのポリエステル繊維をリサイクルし、細かいチップの形状にしたものです。本物の土と比べて軽く、衛生的かつ繰り返し使えることなどがメリットで、確かに “ 繊維から生まれた土 ” としてご紹介してはいましたが、まさか内装に使うとは。正直、僕らが想像もしなかった用途でした。
竹田
そうでしたか。でも僕は、いま流通している多くの再生素材が、パネルなど決まった形状やサイズが多い中、細かなチップ状になった「TUTTI」は、後藤さんに紹介された時点で、内装の材料として成立するな、と思いましたね。
職人の方々と相談しながら使ってみたら、グレーと白が混ざったような色合いが空間によく馴染むし、フェルト状の繊維だから着色しやすくて、発色も良いですよ。
後藤
いろんな色を手軽に作り出すことができるなら、新しい左官のあり方、みたいな表現もあり得そうですね。
坂本
そうですね。左官、と最初に聞いた時は、どうやって使うんだろう?と思いましたが、見せてもらったテストピースが想像を超えたカッコいい仕上がりで、すごく面白いな、と。
竹田
良かったです。正直、現状の再生素材の中には、本当にエコでサスティナブル?と疑問を抱くものもあります。むしろ木材を使った方がよっぽどカーボンフラットでは?と。成長する過程で二酸化炭素を吸収して酸素を放出するし、燃やさない限り吸収した二酸化炭素は中にとどまりますから。
今回は木材に左官で、という手法を取りましたが、この先、例えば「TUTTI」そのものだけで無垢の木材の天板くらい厚みを持たせるとか、大きな塊の状態から削り出すことができるようになれば、家具も作れそうですし、素材としての大きな可能性や将来性を感じます。
坂本
ありがとうございます!嬉しいですね、次々と新しいアイデアが。
我々は繊維の専門商社なので、後藤さんにお声がけいただいてなかったらDESIGNART TOKYOに参加することも、「TUTTI」の新たな可能性に気づくこともなかっただろうと思います。
後藤
竹田さんというクリエイターの存在が、業種や業界をまたいで、私や坂本さんでは思いつかないような用途を発見してくれて、非常にワクワクしますね。
「DESIGNART TOKYO」というユニークなプラットフォームがもたらすもの
後藤
私は普段から、全国各地でさまざまな素材の情報をリサーチし、プロジェクトに実装できる素材の開発や、Co2排出量の研究などを行っていますが、環境への配慮が制限となり、意匠性や機能性、経済合理性などが二の次になってしまっては本末転倒です。空間をデザインする会社として、クリエイターの矜持として、地球規模の課題である環境問題に真剣に取り組みながら、ワクワクするデザインや愛される空間を作っていきたい。
だから今回、DESIGNART TOKYOをきっかけに「TUTTI」というサスティナブルな素材の可能性が広がり、新たなアイデアやイメージがかたちになって、業界や業種を越えて多くのクリエイターと、素晴らしい空間を作り上げていけるのは、本当に嬉しいですね。
坂本
こちらこそ、竹田さんや後藤さんをはじめ、本当に幅広い業界・職種の方々とDESIGNART TOKYOでご一緒できることがありがたいです。後藤さんに電話をもらってから、あっという間の展開でした。
竹田
僕も正直、やってみないとわからない状況でしたが(笑)、それって結構大事だと思うんですよね。
無茶振りだよなぁっていう簡単ではない課題や、準備する時間があまりない中、それぞれのプロが追いつめながらも集まって、熱量や勢いのまま「もうやるしかない!」って取り組んでいると、これまでにない新しいものや発想が生まれるんじゃないかと。
後藤
確かにそうですね。
それに、どうしても環境問題って、法律や数値の基準、それぞれの正しさみたいな小難しい話になりがちですが、どうやったらもっと良くなるか、みんなでアイデアを交わしたりプロセスを楽しんだりしながら考えるほうが、皆それぞれに少しずつ意識や行動が変わり、環境への配慮につながっていきやすいでしょうし。
竹田
まさに今、変えなければいけないタイミングですからね、大量生産・大量消費で経済を回してきた社会構造を。
例えばヨーロッパの国々は、建築も家具もリノベーションするのが普通で、良いものを永く大切に使い続けますし、新しい建築物を建てるにしても、街の風景にフィットするよう、長期的な視点で検討するのが大前提。そもそも環境に配慮していることをアピールしないのも、それが当たり前の文化だからです。
日本も早々に、“ ユニークで良い素材。当然、サステナブルで環境に配慮されている ”という価値観や感覚に切り替えていくべきでしょう。
坂本
そうですね。我々が『PLUS∞GREEN PROJECT』として展開している「TUTTI」を用いた観葉植物も、なんかいいなぁと手に取ってみたら、実は再生素材を使っていて、というのが理想ですし。
後藤
“上質なものを永く大切に使い続ける ”という文化が、改めて根付いていくことが本当に大事ですね。
竹田
それに「TUTTI」のような本当にサスティナブルな再生素材は、この先もっと “ 上質でラグジュアリーなもの ” として定義・認知させていけるのでは、とも思います。
海外のラグジュアリーブランドと協業するとか、著名なデザイナーが手がけるアイテムを数量限定で展開してもいいのでは。もっと希少価値を高めて大切に使ってもらい、結果的にサステナブルでエコにつながる、そんなブランディングも良いかと。
坂本
すごい。「TUTTI」の可能性がどんどん広がっていきますね!
後藤
ですね。こうして話しているだけで、次々にアイデアが広がっていくのが楽しいです。
私が今回、坂本さんと「TUTTI」にぜひ協力してほしい、とお声がけしたのは、まさにこれが理由で。私も乃村工藝社も2022年からDESIGNART TOKYOに参加してきて、これほど関わった皆がハッピーになっている場って他にないんです。
いろんな職種やクリエイターが思いがけず出会って協業したり、ユニークな展開につながったり。DESIGNART TOKYOって、多様なきっかけが生まれる、とても上質なプラットフォームだと思います。これからの展開がとても楽しみですね。
Text: Naomi
Photo: Kohei Yamamoto
BRAND / CREATOR
坂本和也
スタイレム瀧定大阪株式会社 R&D部 R&D室
入社後、12年間にわたりテキスタイル事業に携わった後、2021年からR&D室にて、人々がサステナビリティに親しみを感じるライフスタイルの実現を目指し、『PLUS∞GREEN PROJECT(プラスグリーンプロジェクト)』に取り組む。プロジェクトを通して、異業種の方々と共創・協働しながら、従来廃棄されていたポリエステル繊維の新しい可能性を模索している。
https://www.stylem.co.jp/
竹田純
HYBE Design Team 代表
新旧、時間軸を横断しながらハイブリットな視点で価値をデザインに落とし込み、クライアントから施工者、職人やアーティストなど多くの協力者を含め、チームとしてプロジェクトの実現に向けて進めているインテリアデザイン会社。DESIGNART TOKYOの会期中、東京ミッドタウンのイセタンサローネでPOP UPも開催している(~10/29)。
https://hybe.jp/
後藤慶久
乃村工藝社 クリエイティブ本部 未来創造研究所 サステナブルデザインラボ 部長
2020年あたりから、クライアントであった欧米のファッションメゾンが、環境配慮を先進的に進めていた影響で空間の環境分野について深くかかわり始める。大手素材メーカーとの共同開発、クライアントワークでのコンサルティング業務、社内外での啓蒙セミナーなどに従事し、空間におけるサステナブル・デザインを実装するために活動を続けている。
https://www.nomurakougei.co.jp/