INTERVIEWS

SPECIAL INTERVIEW | 乃村工藝社

声がけしたくなる家具が問う、人とモノとの関係性

商業施設、ホテル、ワークプレイス、博覧会や博物館などの企画から設計・施⼯、運営管理まで空間の総合プロデュースを⼿掛ける乃村工藝社。600人以上いる社内のプランナー・デザイナーから集まった個性の異なる7人の若手クリエイター。
仕事で感じている課題感「モノの命の短さ」に対して、長く使いたくなるデザインのあり方を探ることから今回のプロジェクトは始まりました。
コンセプトは「もし家具が生きていたら」。スタディを重ねてできた3つの家具は、クラフト感のある素材と独特のフォルムが魅力的、それでいてどれもコチラが期待する機能に対して一筋縄ではいかない個性を持っています。コンセプトの源や作品の見どころ、今後の展開などのお話を伺いました。

家具が「居る」というコンセプトの源

吉村さん(以下、敬称略)「DESIGNART TOKYOに昨年出展し、今後もメンバーを変えながら、クリエイティブの力で世の中に問いを投げ続けようということが社内で決まり、人選を任されました。普段の業務からは見えない新たな視点や化学反応をもたらす可能性がある若手デザイナーを集めたいなと、半数は僕が直接声をかけさせてもらいました。乃村工藝社には様々なジャンルの仕事があるので僕が知らない若手もいます。そこで残りの半数は普段なるべく関わっていないチームに意図を話して推薦してもらいました。」

礒野さん(以下敬称略)「思考の展開の仕方やアイデアをどのように人に伝えるのか等全て勉強でした。中でも、先輩方がミーティングに持ってくるスケッチやアイデアの量に圧倒されました。」

谷さん(以下敬称略)「クライアントがいて、僕らが課題を解決する、というような通常の業務と違って、僕らの中で正解を手探りで見つけていく。目指すべき方向についてはメンバー間で十分議論し、共有できていると思います。」

吉村「共通する課題感として、一生懸命作ったモノがすぐに廃棄されてしまうなど命が短いということがありました。仕方がないとはいえ『まだ使えたのに…』と思うことも多々あり、その解決策として愛着を持てるようなデザインってどんなものだろう?というスタディから始まりました。」

藤中さん(以下敬称略)「僕の家には名前を付けて愛用している40年以上前に発売された扇風機があるんですけれども、たまに動かなくなるんですよね。そんな時シュッて手で回してあげるとまた動き始めたりする。」

吉村「ひとつの物が永く大切に使われるという状況を考えたとき、僕だけがその子のクセを知っているみたいな、物に対する愛着が芽生えるような関係性が生まれていることがありますが、そんなとき私たちは、いつしか物を「所有して使っている」感覚から、気にかけて「一緒に居る」感覚になっていることに気がつきました。家具が“ある”から“居る”という存在になった時、色んな人たちのモノの見方が変わるんじゃないでしょうか?話しかけたくなるような家具になったらいいよね、というアプローチで3種類の作品ができてきました」

家具の動きを見つめなおすことで変わる、モノと人の関係

藤中「『 dohdohドウ ドウ)』 は、座りこなす家具。名前は、相手の様子を伺うどう?どう?という意味と、馬や牛に乗っているとき落ち着かせるときに掛ける声のどーどーからつけました。この家具の中には骨格と関節のような構造が入っていて、腰かけようとするとグニグニと不思議な動きを返してきます。座るときに人と家具がお互いに心地よいポイントを探り合い、自分だけがdohdohとの付き合い方を知っている。これが愛着に繋がると考えました。」
川上さん(以下敬称略)「『iii(いーい)』 は、載せてもいーい?と、こちらが気をつかうような気まぐれなテーブル。遠目に形は同じですが、素材をみつめると個性が全く異なっています。製作過程で大体の形を決めて『なんの素材でどんな風にすると面白いかな?』と、みんなにアイデアを募集して色々試して12個選ばれました。例えば軸の部分がカーボンという同じ素材でできているのに、天板に物を載せると全く異なる曲がり方をする2つのテーブル。1つは、太さの違う3種類でテーパーがかかっていて、もう1つはカーボンの先にコイルがついています。コイルの方はここからグニーッと曲がるのを、助川さんがみつけてくれました。展示会場には載せられる物をいくつか置いておくので、是非みなさんも『どれなら載るかな?』と面白がって試してみてください。」
川上「実はこの竹の部分も、竹刀みたいに3本が合わせられていて自然素材を使っているんです。」

助川さん「 端っこじゃなくて真ん中に載せてあげればいいんだな等、色々試して載せていくうちにその子の癖を見出していくのも展示の面白味。製作過程では足元の素材も同じものだったのですが、育った土が違う植物が集合した時のように、錆の感じの足元だから手で叩いたような銅の軸なんだなとか、過剰じゃないけれどしっかり個性を出すように手で仕上げていきました。」
谷「『sorosoro(そろそろ)』 は、点灯時はピンと立ち消灯時はダランと休む照明です。当初は休んでいる様子に主軸を向けて『YAREYARE(やれ やれ)』 と名づけていましたが、他の家具のネームは『ドウドウ』って声かけだし、『いーい?』もこちらから声かけるようなアプローチだったので、それで『そろそろ点いてもらっても良いでしょうか?』ですとか『そろそろ休みますか』と、名前を変えました。」

吉村「『sorosoro』は紐を引っ張ったり緩めたりして点灯・消灯できるのですが、ギュンって引っ張ったらギュンと立つ。そうでなくて人間が接点を持つ時に少し気をつかうような相互関係でいられるようにしたいよね、と。それがコンセプトの軸になったという感じです。」

萩谷さん(以下敬称略)「個人的に3Dプリンターでの出力というとすごくメカニカルな印象なのですが、砂や竹などの自然素材を混ぜているらしくて螺旋を描く出力もロクロを用いた手仕事のようにも見えて、独自の質感を持ったデザインが完成しました。」

助川「 “カチッ”という感じではなく “フワァン”と点くんですよね。そういった愛嬌が“居る”という感覚に繋がる気がしています」

谷「“カチッ”だったら苦労しなかったんだけどなあ…」 一同(笑)

今後の展望と未来の方向性

吉村「今後は海外への展開も視野に入れた発信を考えています。今回はものづくりの人だけではなくて、普段ブランディングを手掛けている萩谷さんもチームに入ってもらっています。媒体に載っていく中で、どのようなスタイルで撮るとみんなの意図が伝わるかなどアドバイスをもらっています。」

萩谷「最初に世界観の指標を定めて、それに向かって作り上げていくものづくりとは180度違っていて、みんなと話している中で『これの方が素敵だよね』と思考を共有して、並走して自分に染み込ませています。自然物に対して命を感じるようなクラフト感のある作品が生み出されることは、最初からは想像できませんでした。タイトルグラフィックなどの発信的な見せ方も、手を動かしながら実験的につくっていく温度感が伝わるとよいなと思っています。」

吉村「この3つの家具は頑丈なわけでも、機能的に優れているわけでもありませんが、むしろ、どこか不安定さや気まぐれさがあり、気にかけたくなる性質を持っています。まずはデザイナートの会場で、皆さんに実際に触れて頂き、日常の小さな感覚の変化を持ち帰っていただけたら幸いです」

Text: Yoko Dobashi
Photo: Ryo Usami

BRAND / CREATOR

 

 

株式会社乃村工藝社

乃村⼯藝社は、商業施設、ホテル、企業PR施設、ワークプレイス、博覧会、博物館などの企画、デザイン、設計、施⼯から運営管理までを⼿掛ける空間の総合プロデュース企業です。グループ全体では、全国10拠点・海外8拠点、国内外6つのグループ会社で事業展開しています。 1892年(明治25年)から培ってきた総合⼒を活かし、フィジカルとバーチャルを融合させた空間価値の提供で、⼈びとに「歓びと感動」をお届けしています。昨年のDESIGNART出展(SCRAPTURE)に続き、今年は「Being-家具が居ること-」というタイトルのもと、社内若手メンバーが中心となってチームを組み出展します。

https://www.nomurakougei.co.jp/
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