INTERVIEWS

左:田中紗樹さん(アーティスト)  右:関口悠花さん(アルフレックスジャパン)

アルフレックスが展開するアートプロジェクト〈LIFE with ART project〉

「日々の暮らしに潤いと楽しさをもたらすアートとは」 【対談】田中紗樹さん(アーティスト)×関口悠花さん(アルフレックスジャパン)

アルフレックスジャパンでは、1969年の創業当時からライフスタイルブランドとして、家具だけではなくラグやグリーン、照明、アートなどを含めた総合的な提案をしています。2017年からは直営店を舞台に、暮らしに潤いと楽しさをもたらすアートを紹介する企画展〈LIFE with ART project〉を展開。絵画、版画、彫刻、陶芸、写真など幅広いジャンルから、50組以上のアーティストを取り上げてきました。(curated by noie.cc)
今回は参加アーティストのひとり、田中紗樹さんとプロジェクト担当の関口悠花さん(アルフレックスジャパン)による対談を通して、プロジェクトの内容やユニークな展示について伺います。

その場の空気感や特性を大切にする

関口悠花(アルフレックスジャパン):アーティストの田中紗樹さんは、〈LIFE with ART project〉に何度も参加していただいています。活躍の範囲がとても広い田中さんですが、ご自身の活動について教えていただけますか。
田中紗樹:私は女子美術大学の絵画科洋画専攻を卒業後、制作を続けていました。ライフワークとして、「stay&work(ステイ・アンド・ワーク)」と称するプロジェクトに取り組んでいます。その活動を知ってくださった方や企業が、壁画の制作や商品デザインを依頼してくれるようになり、今では平面だけではなく、洋服や商品パッケージ、お店のロゴなど、絵でできるあらゆることに挑戦しています。
関口:「stay&work」とはどういった活動なのでしょう。
田中:国内外を旅しながら現地に絵を残していく活動です。行きたい国を選んで、個人のお宅なり、居候できる場所を探して、コンタクトを取るんです。
関口:労働と、宿や食事を交換するワークエクスチェンジのようなものですか。
田中:一般的なワークエクスチェンジではホストの農作業などを手伝うんですが、私の場合は絵を描きます。事前に何を描くかは決めずに、現地に入って人間関係や生活のリズムを感じるなかで、絵のコンセプトを見つけていくんです。そのプロセスで生まれた交流や、そこにいる自分自身も含めた空気感、すべてが一緒くたになったものを絵として現地に置いてくる、という感じですね。
関口:本日は作品をお持ちいただきました。どんな風に描くのですか。
田中:こういったラフなドローイングは、チューブから絵の具を直接出して、ヘラで伸ばしていきます。基本的に筆は使わず、混色もしません。あとは紙を切ったり貼ったり、そのへんの紙片を置いてみたり。描いたものをぐるぐる回して視覚的に気持ちのいいところで止める、といった偶発性を利用することもあります。例えば生花って、空間とのバランスを見ながら「青の次は黄色で、背景はふわっと」という感じで生けていくと思うんですが、私の絵もそういう構築の仕方です。
関口:インテリアのしつらえにも似ていますね。
田中:そうかもしれません。壁画を制作する時は周辺の気候や光の具合など、その場所の特性に左右されますし、白い紙も私にとっては空間みたいなもの。小さい頃から続けている書道の影響もあるのかもしれませんが、空間や余白を生かしたいんです。

ライブペイントでは早替えも

関口:最初に田中さんの作品展をアルフレックス東京で開催することになったのは2019年7月でした。〈LIFE with ART project〉をキュレーションしていただいているnoie.ccさんから「アルフレックスにぴったりの作家がいる」とご紹介いただいて。当時、田中さんから「お店の空間に合わせて描きたい」と伺って、スタッフみんなで作品ができあがってくるのを楽しみにしていました。
田中:このお店って、大きな円形のエントランスがあって、とても特徴的な空間ですよね。当時は、入り口にたくさんの植物がディスプレイされていて、鬱蒼としたジャングルに入り込んでいくような感じがして、作品展のタイトルを『密林に降る花』としました。
関口:植物的なイメージを持つ絵や、各部屋のシーンや家具に合わせて、全部で約40点揃えていただきました。いつもの店内とはガラッとイメージが変わり、とても新鮮でした。オープニングにはライブペイントを行いましたね。
田中:はい。いつもコラボレーションしている三味線奏者・五錦雄互さんにきてもらって。
関口:急にパフォーマンスが始まるんですよね。奏者の方が調律していて、田中さんが入ってきたと思ったら、いつの間にか始まる。絵を描き終えて、これで完成かと思ったら、今度はカッターで絵を切り始めたので驚きました(笑)。
田中:パネルにキャンバスをスプレーのりで貼っておいて、まずその上に絵を描いて。それからカッターでキャンバスを切り取って、ガンタッカーで貼り付けていきました。
関口:三味線のシンプルな音と、田中さんの潔い身のこなしも含めてとてもかっこよかったです。最後には驚きの演出もありました。
田中:ライブペイントで描いた作品を早替えでインテリアの中に設えたんです。絵を描いた直後は床も汚れるし、家具に絵の具がついたら大変。でも、アルフレックスの皆さんが「そういう演出にしてはどうか」と言ってくださって。
関口:ライブペイントをする場所は元々ベッドルームの設えでした。ライブが終わった後はお客様と店内を一周しながら作品を解説していただくという流れにして、その場から離れている間に急いで裏に隠してあったベッドを戻し、インテリアを元通りにしたんです。お客様が戻ってくると、何事もなかったかのように、ベッドルームに完成した絵が飾ってあって。皆さんとても驚かれていましたね。
田中:大成功でした。アルフレックスさんだからこそできた展示だと思います。

今までにない視点で新しいことに挑戦したい

関口:田中さんの作品展はその後、アルフレックス大阪とアルフレックス玉川で開催されました。今年の11月17日(木)~12月6日(火)には、最終会場のアルフレックス名古屋で行われます。会場によってタイトルやコンセプトが毎回変わりますが、今回は。
田中:外からの光がたくさん入る環境で、今までとまた違う雰囲気ですよね。今、いろいろな言葉を思い浮かべながら、タイトルを決めようかなと思っているところです。
関口:どんな展示になるか楽しみです。最後に、ご自身の今後の展望について教えていただけますか。
田中:実は昨年子供が生まれて生活のリズムがガラッと変わったんです。教育についても考えるようになるなか、子供向けのワークショップを頼まれたり。今までにない視点でいろいろなことにチャレンジしていきたいと思いますし、新しい人たちとも関わっていけそうな予感もあります。
関口:それは素敵ですね。各店舗で開催してきた〈LIFE with ART project〉も6年目を迎えて、ウェブサイトをリニューアルしました。美術館やギャラリーのようなホワイトキューブで見るアートとはまた異なり、インテリア空間でアートを気軽に楽しんでいただける企画です。より多くの皆さんに活動を知っていただき、アートを取り入れたら暮らしがこんなに楽しく豊かになる、ということを伝えていきたいと思っています。本日はありがとうございました。

BRAND / CREATOR

arflex|LIFE with ART project

家具と共に生活を彩り、暮らしに潤いと楽しさをもたらすアート。アルフレックスでは〈LIFE with ART project〉と称し、ジャンルも表現も様々なアートイベントを開催してまいります。

<各店舗での直近の作品展スケジュール>

アルフレックス大阪 小川哲展 2022年11月17日~12月6日

アルフレックス玉川 ヘルムート・ニュートン×ニコラス・テイラー 写真展 2022年12月1日~26日

アルフレックス東京 佐々倉文展 2023年2月9日~3月8日

curated by noie.cc

https://www.arflex.co.jp/about/activity/life_with_art_project/

イタリアでモダンファニチャーの思想と心地よい暮らしの在り方を学んだ創業者が、1969年に日本での展開を始めた家具ブランド。「長く安心して使える家具」という思想のもと、シンプルなデザインと高い耐久性、メンテナンス性を全ての製品に追求し、日本オリジナルの製品をつくり続けています。また、住まう人の個性を引き立て、魅力的な住空間をつくる存在として長年にわたりアートのご提案にも力を入れて取り組んでまいりました。「生活の道具」である上質な家具をベースに、アートやインテリアエレメントで彩りを加えた、心豊かに過ごせる空間づくりをお手伝いします。

https://www.arflex.co.jp/

田中紗樹

絵描き
1984年 アメリカ・サンフランシスコ生まれ 
2006年 女子美術大学 絵画科洋画専攻卒業
東京在住

アメリカで生まれ香港に住んだ幼少期の経験から、様々な土地や文化に興味をもつ。
アトリエでの制作や作品発表の他、旅先に絵を残す「stay&work」プロジェクトを続ける。
インドでスパイスドローイングを制作/ロンドンで自転車にペイント/アメリカでテント生活をしながら犬小屋制作/ジャワ島でガムランフェスティバルの装飾制作/スロベニアでトレーラーハウスにペイント/など場所によって表現方法は様々。
生活×旅×制作を織り交ぜ、土地から得るパワーや人との交流を大切にし旅先の風景を創る。
 
幼いころから続ける書道の影響により、
間の取り方・余白のバランス・リズム、大胆な筆致が主な作品の特徴。

https://www.sakitanaka.jp/