INTERVIEWS

スペシャルインタビュー:板坂 諭

大きな木の幹を模した会場構成を通して、 青山の歴史や生物の循環に思いを馳せる

「循環」を生み出すサスティナビリティ。そ の 最 終 形は、生物として自然に還ることだと思います。そこからイメージを広げ、今回は会場を貫く一本の木のような 展示構成を発想しました。「 PANECO ® 」という 廃棄衣料繊維を原料とする繊維リサイクルボードを 使用して、展示台としての役割を果たす構造物を作 成します。大きな木のようなテーブルの集合体が、ミニマルなホワイエに有機的に広がっていきます。
木を模した会場構成を思いついたのは、会場となる 青山という土地の歴史的背景に興味を持って調べていたことも影響しています。青山は、元々徳川家康の重臣であった青山家の青山忠成に譲ったと言われる領地で、5千万石に及ぶ広大な広さをもつ自然豊 かな場所であったと言われています。その美しさから富嶽三十六景にも登場し、富士山を臨む小高い山 は、東京近郊の自然豊かな名所として親しまれてい ま し た 。一 方 、現代の青山を振り返るとどうでしょうか?周辺はビルばかりで、人間が住むにしては少しばかり寂しい。単なるノスタルジーということではなく、この会場を通してもう一度青山本来の姿に思いを馳せてもらう試みでもあります。
さらに歴史をたどると、青山家の末裔であるクーデ ンホーフ光子(旧名:青山光子)は、東京都に届出 された初の国際結婚として、当時の日本で一大センセーションを 巻き起こしていました 。この一件が 、現在の青山の先鋭的でファッショナブルなイメージの礎になっているようです。このような歴史的文脈もま た、今回の展示をきっかけに興味を持ってもらえたら、と考えています。
「興味のきっかけになる」ことは、私がデザインを初め た 2000 年頃から一貫して持ち続けるテーマです。 たとえば、私の代表作のひとつ「Mushroom Lamp」 は、世界中に当時存在した 23,000 発の核兵器廃絶 を願い制作したものです。発表から 10 年近くの歳月を経た今年、ゴールドのバージョンを発表しました 。 現在、恵比寿の「SOMEWHERE TOKYO」で行って いる個展で展示しています。ロシアのウクライナ侵攻 による核への危機感の高まりもあり、オランダのギャ ラリーやサンフランシスコ近代美術館でも展覧会が 開催されています。皮肉な現実ですが、それでもやは り私は社会の課題をデザインを用いて代弁し続けていきます。作品がきっかけとなり、まずはダイアローグが生まれることが、この分断する社会で何より重要と考えるからです。
だからこそ、と言いますか...実は、デザイナート トーキョーには皆勤賞で参加しています(笑)。私のよう なデザインアプローチを行うものにとって、デザイナートは日本における唯一無二の土俵と言っていい。 この貴重な機会を通して、多くの人々に何らかの気 づきを与えられたら、と思っています。
Text: Kumiko Sato, Photo: Yosuke Owashi
作品集 「IN THINGS, Collected Works by h220430」は、10月15日欧州より発売予定。

BRAND / CREATOR

板坂 諭

プロダクトデザイナー・建築家。1978 年岡山県生ま れ。2001年名城大学理工学部建築学科卒業。建築設 計事務所を経て 2012 年 the design labo を設立。 建築とプロダクトデザイン、双方の分野で活躍する。

http://www.thedesignlabo.co.jp