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倉本仁さんのオフィスはさながら、実験室。制作の過程で使われる素材や完成に至らなかった大量の試作品がテーブルの上に山のように積まれています。最初の発想から適した素材を探り出し、何度も形にして、手で触れて、微細な感触を確かめながら、ひたすら、検証を繰り返す。「素材の声を聞く」のが、倉本さんの物づくりの流儀です。
「試作品のほとんどが日の目を見ることのない失敗作なのですが、その中に輝きを放つ1%の正解があるんです。クリエイターは皆、手放せずに大切にしているアイデアの種を何かしか持っているんですよ。それは単なるプロトタイプではない、作り手の理念や希望が詰まっている発想の原型なんです」
生まれ育ったのは、淡路島。山野を駆け回り、絵を描くのが好きだったという少年時代。その純朴な心がクリエイターの道へと向かっていったのは、個性を受け入れ、温かく見守ってくれた多くの出会いに恵まれたからだと、倉本さんは当時を振り返ります。
「近所に芸大卒のお兄さんがいて、子供らに絵を教えてくれたんです。ファミコンなんかせんと、自然に触れて遊びながら学べと。山ん中で楽しくスケッチしたりして、絵心が芽生えました。その後、高校時代は瓦屋さんでアルバイトをして、大工に憧れたり。勉強は嫌いでも、物づくりは好きでした。そんな息子の性分を見抜いた父親から、美大へ行けと勧められて。最初は受け身のスタートだったんですよ」
本格的なプロ活動のスイッチが入ったのは、大学卒業後に就職したNEC時代。インハウスのデザイナーとして日々多忙を極める傍ら、自らの作品作りにも励んでいたそうです。
「巨匠と言われるデザイナーの概念や表現が気になり始めて、自分も想いを形にしてみようと、コンペに出品するようになって。勤め人なのに、勝手を許してくれた上司たちにも感謝しています。淡路島のおぼこい少年がデザイナーとして世に出ることができたのは、たくさんの導き手があったから。私にとって、デザインは、コミュニケーションそのもの。育ててくれた社会への恩返しでもあるのです」
倉本さんが今回出品する「Vannfall」と名付けたガラスの水差しのアーキタイプも、事務所で大切に保管されていた発想の原型。デザインの初期段階で何度も検証を繰り返す、倉本さんらしい手作業の痕跡を感じられる品です。
倉本さんがキュレーターを務める「KURADASHI」は、普段は見ることのできないクリエイターの発想の原型に触れる絶好のチャンスです。ぜひ、ご期待ください。
国内外のデザイナーやクリエーターが試行錯誤して生み出した作品の原型や様々な理由でアトリエや倉庫に眠っていた秘蔵の作品を展示し、クラウドファンディングサービスの「うぶごえ」で販売。その価値に共感するユーザーに届けることで、作り手の想いと繋がれる新発想のクリエイティブマーケットです。
参加クリエイター:
秋山亮太、芦沢啓治、安積朋子、Anker Bak、板坂諭 / h220430、we+、Victoria Wilmotte、Øivind Slaatto、Gabriel Tan、熊野亘、Claesson Koivisto Rune、倉本仁、GELCHOP、柴田文江、Sho Ota、鈴木元、Daniel Rybakken、寺山紀彦、DRILL DESIGN、長坂常 / スキーマ建築計画、藤城成貴、前田麦、松山祥樹、minä perhonen、元木大輔、柳原照弘、山中一宏、Yusuke Seki、YOY、吉行良平
(あいうえお順)
会場:
ワールド北青山ビル
港区北青山3-5-10
10:00 – 18:00
協賛:うぶごえ株式会社
協力:株式会社ノムラデュオ・株式会社イーストウェスト
*出展作品はクラウドファンディングサービス「うぶごえ」上にて購入できます 。
「うぶごえ」プロジェクトページはこちら
(販売開始:10月22日(金)12:00〜)